【沖縄の家督相続】本家・分家意識とは?もめる・もめない違いは?
2023/2/11
家督相続とは戦前の旧民法に戻づいて「長男が家全体の財産を相続する」考え方を差し、現在の民法では採用されていません。
けれども人々の間で家督相続の意識は今も根付き、相続トラブルに発展するケースも多いのです。
・家督相続とは?
・家督相続への意識はどう変わった?
・家督相続でもめやすい/もめにくい家は?
今回は相続トラブルの原因に多い家督相続について、その概要と人々の意識の変遷、家督相続の意識によりもめないための傾向や対策をお伝えします。
家督相続とは
●「家督相続(かとくそうぞく)」とは、戦前の旧民法における家制度により、長男が両親の全財産を継承する考え方です
沖縄では先祖代々位牌「トートーメー」の継承において顕著ですが、大まかには長男が戸主(家長)として全財産を相続するものでした。
(1)本家…両親から全財産を引き継いだ家(長男)
(2)分家…実家から独立した家(次男以降)
沖縄では本家を「ムチスク(宗家)」「ムートゥーヤー」などと言いますよね。
古いトートーメーが祀られていたり、旧盆などでは手土産を持って、分家が本家を訪ねて仏壇に手を合わせます。
家督相続における問題点
●家督相続は旧民法によるもので、現民法では両親の相続財産を兄弟姉妹が均等に分配する「均分相続」が基本となります
けれども家督相続は、戦後の昭和22年5月3日に廃止され、現代の民法では兄弟姉妹が平等に相続する「均分相続」が基本です。
(1)旧民法
・長男が全財産を引き継ぐ「家督相続」
(2)現民法
・兄弟姉妹が均等に相続する「均分相続」
けれども特に地方を中心に人々の暮らしや相続では、旧民法の本家・分家意識が根付いており、長男が他の兄弟姉妹へ相続放棄を求めるなど、相続トラブルの原因になっています。
家督相続・均分相続、意識の違い
●家督相続であれ均分相続であれ、兄弟間で意識が統一していれば、相続トラブルも起こりません
家督相続は旧民法の考え方であるとは言え、相続人間で意識が統一していれば、次男以降の兄弟が相続放棄をすることで、手続き上は長男が両親の全財産を引き継ぐことになります。
●起こりやすいトラブル例です。
・長男…家督相続を主張
・次男…均分相続を主張し、遺留分を請求
現民法では相続人が最低限の相続財産を主張できる権利「遺留分」があり、遺留分を侵害された相続人は「遺留分減殺請求」ができます。
遺留分減殺請求は家庭裁判所へ申告するものです。そのため「相続人全員が納得していない=相続トラブル」へ発展します。
根強い家督相続は、高齢化社会も遠因
●高齢化社会により、現代の被相続人(故人)の多くは80代・90代となり、戦前の家督相続の元で育っています
2023年現在は戦後78年の年に当たりますので、現代の80代90代の多くは戦前の旧民法である家督相続の元で育っています。
その相続人となる子ども世代は50代・60代と戦後生まれではありますが、親が家督相続の元で育った戦前世代となり、その価値観を継承している人々は少なくありません。
●全国的な家督相続・均分相続の意識の変遷
(1)2011年(平成23年)
・家督相続…52%
・均分相続…48%
(2)2012年(平成24年)
・家督相続…59%
・均分相続…41%
(3)2013年(平成25年)
・家督相続…62%
・均分相続…38%
(4)2014年(平成26年)
・家督相続…58%
・均分相続…42%
[参考]税理士法人レガシィ調べ
この4年の変遷を見て行くと家督相続と均分相続は毎年ほぼ半数、4年平均では家督相続が58%、均分相続が42%となっています。
昭和22年に家督相続が改正されてから76年、「ほとんどが均分相続になってもおかしくはない」と考える人も多いなか、家督相続意識が消えていないのが現状です。
財産が多いほど家督相続意識も高い
●なかでも相続税の課税額が5億円を超える相続に焦点を絞ると、家督相続の比率がぐんと高くなります
けれども家督相続意識による相続トラブルは、もっと多いように感じる人も少なくはありません。これは相続財産が多い相続ほど、家督相続意識が強いことがあるでしょう。
(1)2011年(平成23年)
・家督相続…59%
・均分相続…41%
(2)2012年(平成24年)
・家督相続…89%
・均分相続…11%
(3)2013年(平成25年)
・家督相続…79%
・均分相続…21%
(4)2014年(平成26年)
・家督相続…88%
・均分相続…12%
[参考]税理士法人レガシィ調べ
相続税の課税額が5億円を超える相続では、4年平均で家督相続が79%、均分相続が21%と、その割合が大幅に増えます。
この背景には相続とともに事業継承が入ることもありますが、相続財産が大きくなればなるほど、家督相続による相続トラブルが起きやすいとも言えるでしょう。
もめやすい家督相続
●「長男」が家督相続をする意識が高いため、上に姉がいる兄弟構成においてもめやすくなります
沖縄はもちろん全国的に、家督相続は代々長男とされます。
けれども男女平等の現代において、例えば長女・次女・長男(末っ子)の兄弟構成などの、いわゆる「末っ子長男」などは相続トラブルが起きやすいです。
さらに相続発生まで他の兄弟姉妹が両親と同居し、介護などをしていたとなれば、より相続トラブルリスクは高くなるでしょう。
●相続まで、本家意識が薄れていた
・上に姉がいる
・長男が両親と別居している
・他の兄弟が両親と同居している
・他に強い趣味や関心事がない
沖縄では先祖代々位牌「トートーメー」継承を理由に、今まで実家に寄り付くこともなかった末っ子長男に家督相続を検討する両親もいます。
けれども現代はトートーメーを継承しても、すぐに永代供養やお焚き上げをする事例も多く、それだけでは他の兄弟が納得するとは限りません。
もめにくい家督相続
●第一子が「長男」であり両親と同居している場合は、家督相続によるトラブルは起きにくいです
また長男が本家意識を持ち、次男次女以降の兄弟姉妹の結婚や出産などのライフイベントに際し、事あるごとに多額のお祝い金を出すなど、細やかな配慮があった家では、より家督相続による相続トラブルが少なくなります。
・第一子が長男
・長男が両親と同居している
・本家として分家へ配慮している(お祝い金など)
・仏壇やお墓をしっかりと継承している
また本家としてお墓や仏壇を整えてお世話をしていたり、供養をしている長男も家督相続で兄弟姉妹から理解を得やすいです。
兄弟姉妹のなかには「同居しているだけ経済的に楽だったのでは?」と言うケースもありますが、本家意識を持ち世話をしている長男への理解が深い兄弟姉妹の方が多いでしょう。
相続でもめないために
●家督相続の意識が残る家で、相続トラブルリスクを軽減するためには、日ごろから本家・分家、それぞれの気遣いが必要です
もともと本家・分家意識が強い家だと言う自覚があるならば、相続発生前から家督相続を見据えたお互いの配慮も必要になるでしょう。
本家はもちろん、現代では「家を継承する」ことが必ずしも良いことではありませんので、何かと自由な分家としても、本家への配慮が必要です。
(1)長男(本家)
・えらそうにしない
・甥や姪のライフイベントでお祝い金を多めに出す
・冠婚葬祭では交通費の負担や手土産などを気遣う
・必要に応じてランドセルや机、ピアノなどの贈り物も良い
(2)兄弟姉妹(分家)
・長男が同居している場合、感謝を示す
・お墓やお仏壇の世話に感謝を示し、協力する
・帰省時にはお土産などを持参する
・お中元やお歳暮、お祝いなど細かく贈る
分家である兄弟姉妹は長男やその子ども達のライフイベントに際し、本家ほど多くのお金を包む必要はありません。
けれども両親やお墓、お仏壇のお世話を担ってくれることへ感謝し、一回一回は少ない金額でも良いので、細かく感謝の気持ちを伝えることがポイントです。
最後に
以上が相続トラブルの遠因になりやすい、家督相続と本家・分家意識です。
都心部などでは家督相続や本家・分家意識も薄れてきましたが、地方では根強く残っている地域も多いでしょう。
相続トラブルに発展した事例では、兄弟姉妹間で自分達は気にしていなくても、周囲の親族が意見をすることも多くあります。
例えば遠方に住んでいた長男に対して、「両親の家に長男が住むべきでは?」などの事例です。
いずれにしても相続は遺言書がない限り遺産分割協議により決定し、遺産分割協議は相続人全員の署名捺印が必要ですので、相続人同士が納得できる協議が求められるでしょう。
まとめ
家督相続・均分相続、揉めにくい家とは?
●家督相続とは
・旧民法「家制度」による
・長男が家の全財産を相続する●均分相続とは
・現民法による
・兄弟姉妹が均等に相続する●家督相続の変遷
・全体…家督相続が58%/均分相続が42%
・相続税5億円以上…家督相続が79%/均分相続が21%●もめやすい家
・末っ子長男
・両親と長男が別居
・他の兄弟姉妹が同居
・本家意識が薄い
・他の趣味や関心が薄い●もめにくい家
・第一子が長男
・長男が両親と同居
・本家意識が強い
・本家が分家に配慮している
・他の趣味や関心が強い