婿養子とは?婿入りや養子との違いは?義実家と実家で相続できる?

2023/2/10

婿養子とは?婿入りや養子縁組との違いは?義実家と実家で相続できるとは?
婿養子とは、婚姻した妻の義両親の養子になることです。
相続対策としての婿養子は、養子縁組をすることで義実家の相続権を得るうえ、実家の相続権も持つ点があるでしょう。

一方婿入りは相続権はなく、この違いを勘違いしている人も少なくありません。

・婿養子とは?
・婿養子と婿入りの違いは?
・義実家と実家、両家の相続権を得るとは?
・婿養子のデメリットは?
・婿養子になる手続きと、注意点は?

今回は、婿養子とは何か?婿入りや養子との違いや、相続におけるメリット・デメリットや注意点を解説します。
 

婿養子とは

「小規模宅地の評価減」の特例とは
●婿養子とは、婚姻した妻の義両親の養子になることです

ただし現代の法律では「婿養子」がないため、婿養子になるには婚姻届とは別に、義両親との間で養子縁組の手続きを行います。(昭和22年法律第222号により、民法から家制度が廃止されました。)
 

婿入りと婿養子の違いとは

●婿入りは、婚姻した妻の姓を名乗るものの、養子縁組をしていない夫婦です

婿入りとは婚姻時に妻方の姓を名乗り、戸籍上は妻が世帯主になります。
そのため世帯としては義両親とは別世帯となり、民法上は相続とは関係のない存在です。
 

婿養子になる5つのメリット

婿養子になる5つのメリット
●婿養子になる最大のメリットは、義実家の相続権、実家の相続権、双方を得ることです

そのため敢えて婿養子を選ぶ場合、義実家が資産家などのケースが多いでしょう。
また義実家の養子として迎えられるため、義実家の経営する事業をリスクなしで継承できる、結婚資金やマイホーム資金などの援助の期待もできます。
 

【経済面】義実家の相続権を得る

●婿養子になることで、義実家の相続権を得ます

法律上養子縁組による子どもが持つ相続は、実子と同等です。そのため最低限の相続財産を継承する権利「遺留分」を持っています。

例えば義実家の実子が妻以外に姉が1人だったして、両親が亡くなった二次相続での遺留分は、下記のような構図です。
 

<婿養子とは:義実家の相続権>
●義実家…相続財産6億円とする(当分分割)
・姉…2億円
・妻…2億円
・婿養子…2億円

 
実際には不動産財産があったり、遺言書の有無や実家側の相続放棄など、さまざまなケースがありますが、民法上の遺留分は当分です。
 

【経済面】実家の相続権も持続

●義実家の婿養子になったとしても、実家の相続権は持続します

婿養子として義実家と養子縁組をしても、実家の実子として相続権は持続するため、実家の相続でも遺留分が発生、「相続が増える」メリットです。

例えば婿養子に入ったAさんの実家が兄弟3人、両親が相続財産9千万を残した場合、大まかに下記のような遺留分になります。
 

<婿養子とは:実家の相続権>
●実家…相続財産9千万円とする
・兄…3千万円
・本人…3千万円
・弟…3千万円

 
実家でも民法上の遺留分は兄弟間で相続財産が等分に分割され、上記の義実家へ婿養子に入ったとすると、夫婦は(妻の相続分も含めて)4臆3千万を相続する計算です。
 

【経済面】新しいキャリアを築く

●婿養子に入り姓を変えることで、新しいキャリアを築くことができます

婿養子になる夫に多いケースは、妻の義両親の事業継承を視野に入れたものも多く、実際に日本では多くの大手企業が婿養子による事業継承を行っているでしょう。
 

<婿養子とは:事業継承の事例>
・ススキ株式会社
アシックス
・松井証券

 
ただし例え養子縁組を交わした婿養子であっても、元を辿れば赤の他人です。
養子縁組は婚姻時に限らず、いつでも交わすことができますが、一方でいつでも解消できる手続きでもあります。

そのためよほど信用されない限りは、「信託」を利用した事業継承が多く、そのために雇われ社長と感じる婿養子も少なくはありません。
 

【家族面】嫁姑問題がほとんどない

●婿養子に入ることで、妻方の家族との関係性が密になり、嫁姑問題が起きにくいです

台所を担う嫁と姑による嫁姑問題は大きな確執に発展する場合が多いです。
特に夫方の義実家と別居する妻と、同居する妻とでは、嫁姑問題によるストレスが51.6%→84.6%と、33%も上がりました。

嫁姑問題は離婚に発展するケースが多く、実際に年間5,000件を超える夫婦の離婚理由が「家族親族との折り合いが悪い」でした。

[参考]裁判所データ
 

【家族面/経済面】大黒柱としての責任が和らぐ

●婿養子になることで、大黒柱としてのプレッシャーが和らぎます

現代の日本では、まだまだ嫁入り婚では男性の「家族を守らなければならない」プレッシャーが少なくありません。

男女平等が進む世界とは言え、女性は妊娠出産も経験することから、現代の日本は男性と女性間で年収平均が100万円の差が出ています。
 

<婿養子とは:義実家からの援助>
●婿養子では、義実家から下記のような援助例が多いです。
・結婚式の資金援助
マイホームや住まいの援助
・教育費の援助
…など。

 
そのなかで婿養子に入り義実家から支援を受けることで、一家の大黒柱としてのプレッシャーが軽減されたと感じる人は少なくありません。

☆一方で、事業継承のプレッシャーを感じる人もいるので、プラスマイナスを吟味しながら検討する必要はあるでしょう
 

婿養子を迎える3つのメリット

婿養子を迎える3つのメリット
●婿養子を迎える義実家のメリットは、家の後継者ができることです

例えば3人姉妹の女系家族だった場合、もちろん娘が家を継承することも可能ですが、現代はまだまだ嫁入りを希望する家が多く、将来的に家の存続が危ぶまれる可能性もあります。

このような場合に、養子縁組をして戸籍上の子どもとすることで、安心して事業や家の継承を婿に任せることができるでしょう。
 

(1)相続税の基礎控除額が増える

●婿養子を迎えることで法定相続人が増え、600万円/1人の非課税枠が増えます

婿養子を迎えることで相続税対策が可能です。
相続税には基礎控除を越えた相続財産に対して相続税が掛かりますが、その基礎控除は法定相続人の人数によって加算されます。
 

<婿養子とは:基礎控除額を増やす>
●相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)

※ただし基礎控除に算入できる婿養子の数は下記に限られます
・実子がいる場合…養子1人まで
・実子がいない場合…養子2人まで

 
法定相続人」とは、民法上で定められた相続人です。
そのため遺言で相続財産を譲る「遺贈」を行っても、法定相続人には数えられません。

つまり養子縁組を済ませた戸籍上の子どもでなければ、相続税の基礎控除に算入されないと言う訳です。
 

相続税の基礎控除における養子の制限については、下記コラムに詳しいです。
【沖縄の相続税】基礎控除とは?いくらから、どれくらい相続税が掛かるの?

 

(2)事業の継承

●戸籍上の子どもになることで、娘を跡継ぎにすることなく、身内に会社を継承できます

子どもが娘だけだった場合、娘に事業を託すことももちろんできますが、現代の日本では女性の妊娠出産や体力的な問題により、労働時間などに不利が生じることもしばしばです。
 

<婿養子とは:事業継承>
[ステップ1]婿養子として養子縁組をする
[ステップ2]婿が会社を継承する
[ステップ3]株を譲渡する

 
大きな企業であれば、少しの不利が致命傷にもなり兼ねません。
そこで娘婿に婿養子になってもらい、事業を託し株を譲渡することで、身内に会社を継承できます。

☆ただし、娘と離婚をするリスクにも配慮しなければなりません。会社の乗っ取りも起こり得ますが、リスク回避として「信託」も検討すると良いでしょう
 

会社の事業継承による株式信託については、下記をご参照ください。
【沖縄の相続】事業継承とは?後継者がいる・いないで分ける会社の相続対策

 

(3)代襲相続もできる

●「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」とは、相続人が亡くなった時に、その子や孫に相続権が移る相続です

婿養子として娘婿を迎え入れたとして、もしも娘婿が先立ってしまった場合でも、夫婦の子どもが代襲相続として、相続の権利を得ます。

娘婿としても子どもに事業継承を託せますし、義両親としても血の繋がる後継者に家や事業継承が可能です。
 

婿養子になる5つのデメリット

婿養子になる5つのデメリット
●婿養子のメリットには、デメリットに反転する側面もあります

例えば義実家と実家、両方の相続権を得るメリットがありますが、他の相続人としてはどのように感じるでしょうか。

妻の兄弟姉妹はもちろん、実の兄弟姉妹であっても、「どっちからも相続財産を持って行くなんてずるい!」と主張する人も、実際には少なくはありません。
 

(1)他の相続人とトラブルの可能性

●得に義実家に妻の他に実子がいた場合、相続トラブルに発展しやすいです

義実家の実子が妻のみであれば相続トラブルの心配はほとんどないのですが、他に実子(兄弟姉妹)がいた場合には、婿養子に入ったことで相続財産の取り分が少なくなるため、反発を受けやすいです。
 

(2)両親・義両親と二重の扶養義務がある

●戸籍上の子どもは、両親や義両親を経済的に許す限り扶養義務があります

戸籍上子どもになり相続権を得たと言うことは、それだけ義両親への責務も負うことを忘れてはなりません。
 

<婿養子とは:扶養義務>
義両親への扶養義務
両親への扶養義務

 
子どもは経済的に命を繋ぐ余裕がある限りは、両親への支援を行います。
 

(3)負の遺産もある

●もしも相続財産に借金など「負の遺産」も、相続対象です

両親と義両親、どちらの相続権も得るメリットはありますが、その分、負の遺産を背負う可能性も高くなります。

特に事業を営む義両親であれば、相続時に借金が多額になっているケースも少なくはありません。

この場合、相続放棄・限定相続の選択ができますが、申請期限である3ヶ月以内に相続財産の内容を調査して、何らかの決断をしなければなりません。
 

相続放棄・限定相続については下記コラムに詳しいです。
【沖縄の相続】借金に役立つ限定承認とは?相続放棄の期限3か月が勝負

 

(4)手続きが煩雑になる

●婿養子になると①妻との婚姻関係②義両親との養子関係が生じるため、それだけ各種手続きが煩雑になります

まず婿養子とは養子縁組により姓を変えますから、今まで使っていた全ての契約に対して名義変更が必要になるでしょう。

これは女性が結婚して姓を変える時と同じですが、例えば会社の名刺や印鑑、クレジットカード、携帯電話から保険関係、銀行口座や住民票まで全てです。
この他、手続きが複雑になるシーンは下記が挙げられます。
 

<婿養子とは:手続きが煩雑>
①養子縁組での手続き
・養子縁組届
・名義変更

②離婚時の手続き
・養子縁組の解消
・名義変更

③死別時の手続き
・養子縁組の解消
・名義変更

 
このように婚姻手続き養子縁組手続きは別物なので、婚姻時はもちろん、離婚や妻との死別時にも、そのまま放置していると養子関係は続くことになり、養子縁組解消の手続きをしなければなりません。
 

(5)婿養子としての立場やプレッシャー

●実際に婿養子に入った人の体験談では、「肩身が狭くなる」「跡継ぎとしてのプレッシャーが重い」などの悩みがありました

ここまでお伝えすると手続きがちょっと煩雑になる程度で、婿養子は相続権も増えてお得のようにも思えますが、実際に婿養子に入った人々の体験談を聞くと、そうばかりではないようです。
 

<婿養子とは:プレッシャー>
・家族内での肩身が狭い
義両親とのお付き合いがストレス
・実家に思うように帰省しにくい
事業継承のプレッシャーが重い
社内や親族間からの視線がキツイ

 
…などなど、婿養子に入った先の状況によっても違いますが、精神面で思った以上にプレッシャーを抱える声もありました。

養子縁組はいつでも解消はできますが、養子縁組も養子縁組解消も、親と子双方の了承がなくては手続きができません。夫婦でよくよく検討したうえでの決断が求められるでしょう。
 

婿養子になる手続きと注意点

婿養子になる手続きと注意点
●婚姻届けとは別に、養子縁組の手続きをします

幼い頃に養子縁組を行う特別養子縁組とは違い、婿養子は15歳以降の養子縁組として、届出人は本人、証人2人による養子縁組の手続きが必要です。
婚姻届けと養子縁組の両方を行いますが、証人2人はどちらも同じ人で問題はありません。
 

<婿養子とは:手続き>
(1)婚姻届け
・婚姻届(成人の証人2人)
・届出人の身分証明書
[本籍地ではない場合]2人の戸籍謄本

(2)養子縁組
●本籍地、もしくは所在地がある役場へ提出
・養子縁組届(成人の証人2人)
・戸籍謄本
・印鑑
・本人確認書類

 
婿養子になるための養子縁組は、義父母の双方と交わすのが一般的ですが、義父・義母の一方と交わすこともあるでしょう。
この場合、例えば義父と養子縁組を交わした場合には、義母の承諾を得ます。

[参考]
・沖縄市「結婚するとき
・沖縄県東村「戸籍とは
 

夫を世帯主にしたいなら、養子縁組が先

●婿養子となる夫を世帯主にしたい場合は、先に養子縁組手続きを行います

婿養子となり妻の姓を名乗る場合、こだわりがなければ良いのですが、夫側が戸籍上の世帯主になるためには、先に夫の姓を変更しなければなりません。
 

<婿養子とは:夫が世帯主になる場合>
(1)養子縁組を済ませる
・夫の姓が妻の姓に変わる

(2)婚姻手続きをする
・夫が世帯主となる
・妻方の姓で世帯ができる

 
養子縁組を行わない婿入りでは、ここで世帯主が妻となり、夫の姓が妻方の姓に変わりますが、義両親とは養子縁組を行っていないため、相続人の配偶者として相続権は得ません
 

合意書の作成をしておく

●婿養子の養子縁組手続き後に「思っていた内容と違う!」とならないよう、事前に合意書を作成すると良いでしょう

一般的に養子縁組を交わし婿養子に入る際、後々のトラブルを防ぐために、弁護士など専門家を介して合意書を作成する人が多いです。
 

<婿養子とは:トラブル回避の書類>
・合意書(養子縁組契約書)
・離縁協議書
…など。

 
それぞれ法的な効力が保証されるとは限りませんが、事前に文書で双方確認を取ることで、後々のトラブル回避に繋がります。
 

最後に

以上が「婿養子とは?」婿養子になる5つのメリット、婿養子を迎える3つのメリット、そして婿養子5つのデメリットと、婿養子になる手続きや注意点です。

ここで婿養子の相続について多い質問に、「妻が亡くなった場合に、配偶者と兄弟姉妹、2つの立場からの相続権はありますか?」と言うものがあります。

確かに婿養子により義両親の実子になったため、戸籍上は妻の配偶者であり兄弟姉妹でもあるでしょう。
けれども一般的には、配偶者としての相続分のみ認められます。
 

まとめ

婿養子とはメリットとデメリット、手続きや注意点
●婿養子とは
・妻の義両親と養子縁組を交わすこと

●婿入りとの違い
・婿養子…養子縁組により姓が変わる
・婿入り…妻が世帯主となり姓が変わる

●婿養子になる5つのメリット
・【経済面】義実家の相続権を得る
・【経済面】実家の相続権も持続
・【経済面】新しいキャリアを築く
・【家族面】嫁姑問題がほとんどない
・【家族面/経済面】大黒柱としての責任が和らぐ

●婿養子を迎える3つのメリット
・相続税の基礎控除額が増える
・事業の継承
・代襲相続もできる

●婿養子5つのデメリット
・他の相続人とトラブルの可能性
・両親・義両親と二重の扶養義務がある
・負の遺産もある
・手続きが煩雑になる
・婿養子としての立場やプレッシャー

●婿養子の手続きと注意点
・婚姻届と養子縁組手続きが必要
・夫を世帯主にするなら、養子縁組が先
・合意書の作成をしておく

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