不公平をなくす「特別受益の持ち戻し」とは?特別受益は10年で時効?
2022/11/21
「特別受益」とは一部の相続人のみが、被相続人から生前に利益(財産)を受け取っていた場合、相続発生後にその不平等を無くすための仕組みです。
2019年に改正相続法が施行され、特別受益の持ち戻し制度が新たにできました。
この「特別受益」は持ち戻し対象になると、遺産分割や遺留分の計算に影響するため、今現在の改正相続法や相続にあたるルールを理解しておくと安心です。
そこで今回は「特別受益」とはなにか、持ち戻し制度や、10年で時効になる仕組みを解説します。
特別受益とは不平等をなくす仕組み
●「特別受益」は一部の相続人が、被相続人から遺産の一部を生前に譲り受けていた場合、相続発生後の遺産分割の際に、その利益を差し引く仕組みです
これは複数の相続人同士が遺産を分割するにあたり、相続人それぞれへの分配に不平等がないように制定されました。
●一例として、被相続人の遺産が1億円、相続人が兄弟2人だったとします。
・兄…特別受益3,000万円
・弟…特別受益なし
[A]特別受益の持ち戻しなし
・兄…遺産の1/2を相続5,000万円
・弟…遺産の1/2を相続5,000万円
[B]特別受益の持ち戻しあり
●[相続発生時の遺産1億円]+[特別受益3,000万円]=[みなし相続財産13,000万円]
・兄…[1/2の遺産相続6,500万円]-[特別受益3,000万円]=3,500万円
・弟…遺産の1/2を相続6,500万円
…このように特別受益を相続発生後の遺産に取り込むことで、相続人間の不平等を解消できます。(「みなし相続財産とは、遺産に特別受益を加算した金額です。)
ただし特別受益は返金ではなく「持ち戻し」の形で行います。
この持ち戻しに期限が設けられた点が、2019年度の改正です。
特別受益の持ち戻しとは?
●遺産分割の際、相続財産に特別受益を加算して分割することが「特別受益の持ち戻し」です
例えば前項の例で言えば、兄の特別受益3,000万円を遺産1億円に加算して、13,000万円として遺産分割をした例を指します。
●特別受益の持ち戻しに対して、遺言でできること
・特別受益の持ち戻し免除
・遺言書で「○○に財産を残す」などをの助言
(特別受益が該当しない遺産分割もある)
特別受益の持ち戻し免除は、遺言を通して特別受益の持ち戻しをせず、通常の遺産分割を行うことをお願いすることです。
また遺留分の損害が発生した場合、遺留分損害請求により取り戻せる可能性もあります。
特別受益の遺留分計算は、10年以内まで
●2019年以降の相続法改正で、特別受益の持ち戻しによる遺留分計算(遺産分割)は、遡ること10年以内まで、と限定されました
ただし「遺留分計算」においてのみ、特別受益の持ち戻しが10年に限定された点がポイントです。(生前贈与/死因贈与/遺贈)
そのため例えば、下記のような相続トラブルで、相続人が遺留分の侵害を主張できます。
・[遺言での相続額]+[特別受益]<遺留分
・特別受益が多く、遺留分を侵害している
例えば前項の事例(兄が3,000万円の生前贈与)で、2022年に相続が発生したとして、下記のように2回に渡って生前贈与があったとします。
・2008年に一回目の生前贈与…1,500万円
・2018年に二回目の生前贈与…1,500万円
すると、2019年以降の相続法改正により「特別受益の持ち戻しは10年以内に限定」されたため、2010年以降に受けた利益のみの適用です。
この場合、前項でお伝えした特別受益の持ち戻し計算は変化します。
[C]特別受益の持ち戻し、10年前までに限定
●[相続発生時の遺産1億円]+[特別受益1,500万円]=[みなし相続財産11,500万円]
・兄…[1/2の遺産相続5,750万円]-[特別受益1,500万円]=4,250万円
・弟…遺産の1/2を相続5,750万円
ここで、兄は2008年にも最初の生前贈与1,500万円を被相続人である父親から譲り受けていますが、10年以上前なので特別受益の持ち戻しには該当しません。
・相続トラブルが多い「特別受益」とは?時効や対象となる生前贈与を解説!
遺産分割では期限なし
●ただし遺産分割協議では特別受益が10年を遡っても、主張が可能です
前項の兄弟の事例で言えば、弟は遺産分割協議において、2008年に兄が生前贈与を受けた1,500万円についても、特別受益の主張ができます。
特別受益の持ち戻しは、遺留分計算と遺産分割協議で、期限の扱いが違うと考えてください。
遺言で「特別受益の持ち戻し免除」
●被相続人は生前に遺言を通して、「特別受益の持ち戻し免除」ができます
「特別受益の持ち戻し免除」とは、被相続人が生前に遺言を通して、生前贈与や死因贈与、遺贈などによる財産の譲与を、相続発生後に特別受益の持ち戻しとして扱わないよう、お願いをすることです。
ただし、特別受益の持ち戻し免除を行ったからと言って、必ず免除される訳ではありません。
裁判において、遺言者の意思表示やその理由を総合的に考慮されます。
・【沖縄の相続トラブル】遺言で特別受益の持ち戻し免除の意思表示を行う方法
おしどり贈与は認められる
●20年以上の婚姻関係がある配偶者へ、居住用不動産や居住用不動産の購入目的で行われた生前贈与に対しては、特別受益とみなされません
例えば20年以上結婚生活を続けてきた夫が、長年夫婦で暮らしてきた評価額5,000万円の家を、相続発生の5年前に妻に贈与したとします。
この場合、子ども達が受けた生前贈与であれば特別受益としてみなされますが、長年ともに生計を立ててきた配偶者である妻に対しては、長年の感謝と今後の生活資金として、特別受益の持ち戻し免除の意思表示と推定され、免除される仕組みです。
※おしどり贈与を争いたい相続人は、「特別受益の持ち戻し免除の意思表示ではない」ことを立証しなければなりません。
特別受益の持ち戻し免除の成功事例
●特別受益の持ち戻し免除が対象となるのは、「遺言書や生前贈与の契約書などに正しい情報が記載されているか」です
特別受益の持ち戻しについては、過去の判例を鑑みながら想定するしかありません。
そのため必ず免除されるとは言えませんが、例えば生前贈与の情報などが正しく記載されていることで、持ち戻し免除の対象になり認められる判例もあります。
・生前贈与の情報が正しく記載されている
・家督相続のために必要な贈与
・介護などの行為に対する見返りとしての贈与
・病気など相続人が生計を立てるために必要な事情がある
「家督相続のために必要な贈与」に多い判例は、例えば長男が親の農場を引き継ぐ場合に、農地の生前贈与を受けた場合などです。
また、もちろん相続人が特別受益の持ち戻しを主張しなければ、電子書面や紙書面がなくても認められるでしょう。
この特別受益の持ち戻し免除は、意思をはっきりと伝えなくても良いとされます。
特別受益の持ち戻しの失敗事例
●特別受益の持ち戻し免除が認められない判例は、特定の相続人が不平等に利益を得ている事例が多いでしょう
特別受益とみなされるか否か、また特別受益の持ち戻し免除の意思表示が認められるか否かはとても複雑ですので、過去多くの判例から読み取るしかありません。
・持ち戻し免除の意思表示が書面ではない
・持ち戻し免除の意思表示によって、遺留分が侵害される
・特別受益者の娘に、さらに不動産を贈与していた
形式としては、まず特別受益の持ち戻しを口頭のみで行われた場合、意思表示が明確に表せられないため、認められる判例はほとんどありません。
仮に、過去に持ち戻し免除の意思表示をしたとして、後々になってから持ち戻し免除の意思表示が撤回された場合には、持ち戻し免除が認められることはないでしょう。
最後に
以上が特別受益の持ち戻しに関しての基礎知識です。
ちなみに「おしどり贈与」について解説をしましたが、正式名称は「贈与税の配偶者控除」で、その名称の通り、一定金額まで贈与税の控除が期待できます。
・婚姻生活20年以上の配偶者への贈与
・居住用住居、居住用住居取得のための資金贈与
・上限2,000万円まで控除
…このような控除内容から、相続税対策として夫名義の居住用住宅の一部または全てを、妻に贈与する事例は多いです。
・おしどり贈与のメリットとデメリットを解説☆相続発生後に問題は起きるの?
まとめ
特別受益の持ち出しとは?
・特別受益は生前に譲り受けた利益
・特別受益の持ち戻しは、遺留分計算に加えること
・特別受益の持ち戻しは、過去10年まで
・遺産分割協議では特別受益に期限はない
・おしどり贈与は特別受益の持ち戻し免除と推定される
・遺言で特別受益の持ち戻し免除を主張できる
・特別受益の持ち戻し免除は、成功例と失敗例がある