相続時精算課税制度とは?仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく
2023/3/4
「相続時精算課税制度」とは、贈与額2,500万円までは贈与税を納めず、贈与者が亡くなった時に相続財産として加算、相続税として納税する方法です。
贈与税から相続税へと、納税が先延ばしになる点などがメリットでしょう。
・相続時精算課税制度とは?
・相続時精算課税制度のメリットは?
・相続時精算課税制度のデメリットは?
今回は、相続時精算課税制度とは?その仕組みや税金対策として相続時精算課税制度を利用するメリット、デメリットを、併用できない暦年贈与とともにお伝えします。
相続時精算課税制度とは?
●相続時精算課税制度とは、生前贈与を受けた推定相続人が2,500万円まで贈与税を納めずに、贈与者が亡くなってから相続税として納税できる制度です
そのため相続時精算課税制度は、原則60歳以上の両親や祖父母などが贈与者となり、将来的に相続人になる「推定相続人」である、子どもや孫が受贈者である生前贈与に適用します。
(1)贈与者…財産を贈与する者
・被相続人…父母/祖父母など
※原則60歳以上
(2)受贈者…財産を受贈(受け取る)者
・推定相続人…子ども/孫など
(3)限度額…2,500万円まで
以上の条件において原則60歳以上の父母や祖父母から、子どもや孫が生前贈与を受けた場合、2,500万円を限度額として贈与税を納税せず、相続発生時に相続財産に加算して、相続税として先延ばしすることができる仕組みです。
相続時精算課税制度の事例
●60歳以上の両親が、子どもの開業資金として2,110万円を生前贈与する際、相続時精算課税制度を利用した事例があります
両親は本来、毎年110万円まで非課税になる「暦年贈与」を利用して、少しずつ子どもへ生前贈与を進めようと検討していましたが、開業資金が必要になったため、一括での生前贈与が求められたためです。
(1)基礎控除110万円までは非課税なので…、
●2,110万円-110万円=2,000万円
(2)本来は2,000万円に対して贈与税が掛かります
・基礎控除後、3,000万円以下の贈与税の税率は45%
・控除額は265万円
●贈与税額=(贈与金額-基礎控除110万円)×税率-控除額
→2000万円×45%-265万=635万円
その年によって違う特例や、住宅資金や教育資金など、生前贈与の目的によって非課税枠の特例はありますが、基本としては前例でお伝えした、両親が子どもへ2110万円を贈与した場合に、750万円の贈与税が掛かることになります。
この贈与税750万円を納税せずに両親や祖父母から生前贈与を受けることができ、相続発生後の相続税に加算できるのです。
・贈与税とは?いくらから、誰が払う?税率や計算方法まで分かりやすく解説!
相続時精算課税制度のメリットとは
●相続時精算課税制度のメリットは、2,500万円までは非課税で贈与(相続税へ延長)でき、非課税枠を越えても贈与税が一律20%になる点です
相続時精算課税制度の何よりのメリットは両親や祖父母から子や孫への贈与に対して、2,500万円までは贈与税が非課税で生前贈与できる点ですが、実際には相続発生まで税金の納付を先送りしていると言えるでしょう。
けれども、2,500万円を超えた生前贈与に対しても税率にメリットがあります。
(1)2,500万円までの贈与税非課税枠(相続税へ延長)
(2)2,500万円を超えると、税率が一律で20%
(3)相続トラブルリスクが軽減できる
被相続人となる両親や祖父母本人から、生前に大きな財産を贈与できるため、相続発生時の相続トラブルリスクも大幅に軽減できます。
贈与税では両親や祖父母から子どもや孫へ財産を贈与する、「特例贈与財産」に対する贈与税の税率「特例税率」では、1,500万円以下で40%、3,000万円以下で45%です。
相続時精算課税制度の使用事例
●相続時精算課税制度に多いケースは、事業継承における自社株式の移転です
預貯金財産とは違い株式には変動がありますから、将来的に事業継承が想定される家族の場合、自社株式の評価額が低い時に贈与します。
・自社株式の評価額が一時的に低い時期に生前贈与
・継続的に利益が出る賃貸不動産などの生前贈与
特に沖縄では高齢になった賃貸不動産のオーナー、軍用地の所有者などが、相続時精算課税制度を利用して子や孫へ生前贈与を行うケースが多いです。
相続財産が基礎控除内である場合
●相続税には基礎控除があり、相続時精算課税制度を適用した生前贈与を加えても、この基礎控除を超えない場合、相続税は掛かりません
…また相続税には基礎控除がありますから、相続財産がそれほど多くないケースでも利用する家は多いです。
[一次相続]最低でも1億6,000万円までの基礎控除
[二次相続]3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
一次相続とは配偶者が相続するもので、二次相続は夫婦が亡くなり子どもが相続する場合となり、生前贈与を加算した全ての相続財産がこの基礎控除内であれば、結果的に相続税は掛かりません。
☆2014年(平成26年)12月31日までの基礎控除は、「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の人数)」でしたが、2015年(平成27年)1月1日以降は改正されています
以前は「相続税は地主や資産家の家の問題!」と考える人も多くいましたが、改正後の基礎控除額は、戸建てオーナーにも該当する人が多くいますので、事前に具体的な数字を算出して、比較検討すると良いでしょう。
相続時精算課税制度のデメリットとは
●一方、相続時精算課税制度を利用することで、特例や暦年贈与が適用されない、などのデメリットがあります
贈与税の非課税枠が適用される相続時精算課税制度は、一度利用してしまうと、暦年贈与や小規模宅地等の特例が、その贈与者に対して適用されません。
(他の贈与者・受贈者の関係でれば、適用されます。)
①適用されない特例や非課税枠
・贈与税の非課税枠(110万円)
・小規模宅地の評価減等の特例など
②相続税が上がる
・受贈者が孫の場合、相続税は2割増し
・その他、税金や手続きが増える可能性
③将来的に資産価値が下がる可能性
賃貸不動産のように定期収入が見込める不動産や、一時的に明らかに自社株式の評価額が下がっている、将来的に確実に評価額が上がる株式であれば良いですが、将来的に価値が下がるであろう財産には、相続時精算課税制度は向いていません。
・【沖縄の相続】小規模宅地の評価減とは?相続税対策で二世帯住宅?
相続時精算課税制度の注意点
●相続時精算課税制度を選択する時には、その贈与者・受贈者の関係性に対して、一度決めたら取り消しできない点は注意をしてください
相続時精算課税制度を利用する時に比較検討される生前贈与が暦年贈与です。
暦年贈与は毎年贈与額の非課税枠である110万円を、少しずつ贈与する人が多いですが、一度相続時精算課税制度を利用すると、この暦年贈与は併用できません。
・相続時精算課税制度を一度利用すると、それ以後、その贈与者からの贈与に対して取り消しはできない。
・相続時精算課税制度の非課税枠2,500万円は、その贈与者からの贈与累計で計算される
そのため前述した子どもの開業資金を援助するなど、一括で生前贈与を望むケースにおいて相続時精算課税制度は向いていますが、長い年月を掛けて生前贈与ができる状況があれば、どちらかを選択します。
・沖縄の相続では「名義預金」に注意しよう。相続税逃れとされない4つのポイント
最後に
以上が、両親や祖父母から子どもや孫へ生前贈与を行う場合、2,500万円までの贈与に対して相続税へ税金納付を先延ばしできる「相続時精算課税制度」です。
上記で解説したように、2,500万円を超えても贈与税の税率は一律20%ですが、相続時にはさまざまな特例があるため、自分達の相続ケースに対して、具体的な数字を算出して比較検討を進める必要があります。
例えば二世帯住宅で、両親が亡くなった後も実家に住み続けるとなれば、「小規模宅地の評価減」特例により、大幅な相続税の節税ができますが、相続時精算課税制度を利用していると、利用できなくなるでしょう。
目的によって非課税枠の特例もありますので、それぞれの状況に見合った非課税枠を賢く利用して、生前贈与を進めてください。
・沖縄に多い生前贈与3つの種類☆相続税対策に効果的な非課税枠と注意点
まとめ
相続時精算課税制度とは
●相続時精算課税制度とは
・2,500万円までの非課税枠がある生前贈与
・両親や祖父母から、子や孫への贈与
・相続発生時、相続財産に加算される
・2,500万円以上は、贈与税の税率一律20%●相続時精算課税制度のメリット
・2,500万円までの贈与税非課税枠(相続税へ延長)
・2,500万円を超えると、税率が一律で20%
・相続トラブルリスクが軽減できる●相続時精算課税制度のデメリット
・贈与税の非課税枠(110万円)が併用できない
・小規模宅地の特例などが併用できない
・受贈者が孫の場合、相続税は2割増し
・その他、税金や手続きが増える可能性
・将来的に資産価値が下がる可能性●相続時精算課税制度の注意点
・一度利用すると取り消しできない
・2,500万円は贈与累計で計算される