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相続トラブルが多い「特別受益」とは?時効や対象となる贈与を解説!


一部の相続人が被相続人から生前に遺産を譲り受ける「特別受益」は、相続トラブルの種ですよね。

例えば兄弟の一人など、特別な理由もなく一部の相続人が生前贈与を受けたにも関わらず、相続発生後に残された遺産から、他の兄弟と同等に分割されたなら、他の相続人が納得できない心情も頷けます。

・特別受益にあたる贈与は?
・特別受益に時効はあるの?

今回は、相続トラブルが多いパターンのひとつである特別受益について、適用される3つの贈与や特別受益にあたらないもの、時効などを解説します。
 

 

特別受益とは?


●「特別受益(とくべつじゅえき)」は、一部の相続人が被相続人から相続前に、特別に受け取っている財産(利益)です

例えば、教育資金や住宅購入費を親が支援するなどの「生前贈与」や、生前の契約により被相続人が死亡後に受け取る贈与などがあります。

特別受益」とみなされた場合、贈与を受けた利益を遺産分割対象に加える「持ち戻し」がなされるため、贈与を受けた利益が特別受益とみなされるか否かが、焦点です。
 

<特別受益の判断>
●特別受益とみなされる基準は、「遺産を前渡ししている」と判断されるかどうかでしょう。
例えば、下記のようなケースで特別受益とみなされています。

不動産や車などを贈与する
教育資金の生前贈与
・多額の生活費援助
事業資金の援助
・結婚などによる持参金

 
…などなどですが、必ずしも上記が特別受益とみなされる訳ではありません。
また判例によっては、無償で家に住まわせていた相続人に対して、特別受益とみなされた事例もありました。

特別受益の考え方は、相続人全員が平等に遺産を分配することにあり、民法903条に定められています。
 

※相続人それぞれが相続する遺産の割合「遺産分割」は、下記に詳しいです。
遺産分割がまとまらないのはなぜ?6つのパターンと2つの解決方法を解説

 

特別受益の持ち戻しと期限

●「持ち戻し」とは、特別受益を遺産として加算したうえで、相続人全員で平等に分割することです

つまり生前贈与を受けて特別受益とみなされた相続人は、その分を遺産の一部として戻し(持ち戻し)、受けた特別受益も含めた相続分を分配されます。

特別受益自体に期限はありませんが、2019年の改正により特別受益の持ち戻し期間は10年と改正されました。

●特別受益の持ち戻しは、相続発生より10年前まで

この改正により、相続発生時に遺留分として計算される持ち戻しに関しては、相続発生より10年前までの特別受益に限ります。
 

特別受益の事例

●ひとり親が亡くなり、遺産8,000万円の場合
・姉(相続人A)…婚姻時の持参金として、3年前に5000万円の生前贈与
・弟(相続人B)…生前贈与は受け取っていない

生前贈与を受け取っていない弟(相続人B)が不平等を感じないとして、現状残された遺産8,000万円を、遺留分通りに分割する場合、下記のような分配です。
 

<特別受益の持ち戻しなし>
・姉(相続人A)…4,000万円(遺産の1/2)
・弟(相続人B)…4,000万円(遺産の1/2)

 
一方、弟(相続人B)がこの遺産分割に不平等を感じたとして、特別受益を主張し、認められたとします。
この場合、姉(相続人A)は生前贈与を受けた5,000万円の持ち戻しを行わなければなりません。
 

<特別受益の持ち戻しあり>
親の遺産8,000万円+姉(相続人A)の持ち戻し金5,000万円=1,300万円(みなし相続財産)
・姉(相続人A)…6,500万円(遺産の1/2)
・弟(相続人B)…6,500万円(遺産の1/2)

 
結果的に姉(相続人A)は、親の生前に特別受益5,000万円をすでに受け取っていますから、相続発生後に受け取る遺産は、1,500万円(6,500万円-5,000万円)です。

※ただし、この生前贈与(婚姻時の持参金)が15年前だった場合、特別受益とみなされるものの、持ち戻しの必要はありません。
 

特別受益にあたる3つの贈与


このように相続発生後の遺産分割に大きな影響がある特別受益ですが、同じ生前に受ける贈与でも、特別受益にあたらないものと、あたるものがあります。
 

<特別受益にあたる3つの贈与>
生前贈与
②死因贈与
③遺贈

 
生前贈与は教育資金や住宅購入資金など、贈与税の非課税枠内で行うのであれば、相続対策として適切ですが、非課税枠以外で生前贈与を相続人に行った場合、贈与税は相続税よりも割高です。

そのうえ相続発生後、特別受益として持ち戻し対象になる可能性があるならば、生前贈与の検討時点で、あらゆるパターンを具体的な数字にして、比較検討しながら熟考することをおすすめします。
 

①生前贈与

●生前贈与は被相続人が生前に、一部の遺産を贈与することです
主には大学資金などの教育資金住宅購入時の援助金などがありますが、この他にも婚姻時の持参金などがあるでしょう。
 

生前贈与による相続税対策については、下記をご参照ください。
沖縄に多い生前贈与3つの種類☆相続税対策に効果的な非課税枠と注意点

 

②死因贈与

●死因贈与は、死亡した時点で特定の財産を渡す贈与契約です

贈与する人を「贈与者(ぞうよしゃ)」、贈与を受ける人を「受贈者(じゅぞうしゃ)」と呼び、贈与者と受贈者は事前に、贈与者が死亡したら受け取る財産を指定し、契約を交わします。
 

③遺贈

●遺贈(いぞう)とは、遺言により相続人以外の人物へ、一部の遺産を譲ります
遺贈を受ける人物「受遺者(じゅいしゃ)」は、基本的に相続人以外の人物ですが、例えば相続人の配偶者など、生計をひとつとする家族だった場合、持ち戻し対象です。
 

遺贈に関しては、下記コラムに詳しいです。
【沖縄の相続対策】遺言書で第三者へ遺産を譲る「遺贈」、3つの注意点

 

特別受益にあたらない3つの贈与


●遺産を相続発生前に譲る目的や要素があったかが、判断のポイントです

他の法廷相続人が不服とした時、特別受益と捉えるか否かの判断は家庭裁判所に託されます。
そのため特別受益になるか、ならないかの判断は、その時々の状況により複雑で、基本的には過去の判例から判断することが多いでしょう。

ただ一般的に下記3つの生前贈与、そして生命保険死亡退職金は、特別受益にはあたらないとされてきました。
 

<特別受益にあたらない3つの贈与>
おしどり贈与
②日常的な小さな贈与
③相続人以外への贈与

 
前述したように一般的には生命保険死亡退職金も、特別受益にあたらない判例が多い一方、生命保険の受取を特別受益としたケースもあるため、注意は必要です。

☆生前に被相続人から贈与を受けた財産が、特別受益にあたるかどうかの判断は複雑で、判例によっても違うため、確実とは言えません
 

①おしどり贈与

●おしどり贈与は配偶者へ、住まい(居住用不動産)や住まいの購入資金を贈与することです
正式名称は「贈与税の配偶者控除の特例」で、おしどり贈与と認められることで、相続税対策としては2,000万円まで非課税で贈与ができます。
ただしおしどり贈与とみなさるには、要件があります。
 

<特別受益にあたらない:おしどり贈与>
婚姻関係が20年以上を経ている
・配偶者の居住用不動産、もしくは居住用不動産の購入資金である
・贈与された居住用不動産に、翌年3月15日には住んでいる
(その後も住み続ける見込み)

 
贈与税は年間110万円以上から課税されるため、正確には2,110万円までが非課税となるでしょう。
 

②日常的な小さな贈与

●日々のお小遣いや、塾代などの日常的な教育費・生活費などは、特別受益としてみなされない判例が多いです

この点が難しいポイントで、生前に贈与された金額が「少額か高額か」の判断は、被相続人の遺産の額や、生前の社会的な地位に左右される傾向にあります。

例えば、1,000万円の生前贈与を受けたとして、下記の2例では同じ金額を贈与したにも関わらず、前者の方が特別受益とみなされる可能性が高いでしょう。
 

<特別受益にあたらない:日常の小さな贈与>
①贈与額1,000万円、遺産総額2,000万円
②贈与額1,000万円、遺産総額5億円

 
「日常的な小さな贈与」の判断は、遺産総額から判断される判例が多いです。
そのため遺産総額が5億円では「日常的な小さな贈与」として捉えることもあります。

一方、遺産総額が5,000万円だった場合、遺産総額2,000万円との割合から、特別受益とみなされる可能性が高くなるでしょう。
 

③相続人以外への贈与

●特別受益は、相続人以外には適用しません
そもそも特別受益は、相続人が平等に遺産を相続できるための法律なので、被相続人が相続人以外へ寄付などの贈与をした場合、特別受益にあたりません
 

<特別受益にあたらない:相続人以外>
●例えば生前に、特定の事業者へ3,000万円の寄付をした場合でも、相手が相続人でなければ、特別受益にはならないのです。

 
…そもそも特別受益とみなされた場合、その利益は返金する訳ではなく、分割協議対象の遺産として「持ち戻し」を行います。(詳しくは後述)
そのため、そもそも相続予定のない第三者への贈与は、対応できない側面もあるでしょう。
 

特別受益の対象者


では、一般的に特別受益の対象者とされる人々は、被相続人とどのような関係性の人でしょうか。
 

<特別受益の対象者>
推定相続人
②贈与後の養子に入った人
代襲者
推定相続人の配偶者

 
相続人はそれぞれ「遺留分」がありますが、相続人やその家族が生前贈与を受けることにより、他の相続人それぞれが持つ「遺留分」を侵害した場合、侵害を受けた相続人は、特別受益への主張ができます。
 

①推定相続人

●「推定相続人」は、相続人になる予定の人です

被相続人から贈与を受け取った時点で特別受益対象者となり、持ち戻しの対象になります。
 

②贈与後の養子に入った人

●養子縁組を目的として実親が贈与を受けた場合、特別受益の対象です
原則として養子縁組に入った時に、相続贈与時点でその養子が相続人であれば、特別受益対象となり、払い戻しも対象となります。

養子縁組には実親と養親、双方の相続権利を持つ普通養子縁組と、養親に対してのみ、相続権を持つ特別養子縁組がありますが、いずれにしても相続権を持っている場合は、特別受益の対象と考えてください。
 

③代襲者

●「代襲者(だいしゅうしゃ)」とは、代襲相続人であり、代襲相続を行う立場の人です
また「代襲相続」とは、法廷相続人だった人が亡くなるなど、何かしらの事情により相続が不可能になった時、代わって受ける相続を指します。

例えば、父親が相続人だったものの遺産分割協議の最中に亡くなった時、その息子が代襲者として遺産を相続することになり、この場合父親は「被代襲者」です。
 

<特別受益の判断:代襲者>
①被代襲者が生前贈与を受けた場合…特別受益とみなされる
②代襲者が生前贈与を受けた場合…判断が分かれる
代襲が発生する以前は、特別受益とみなされない
代襲が発生した後は、特別受益として持ち戻し
・代襲の発生時期に問わず、特別受益とみなす

 
…このように特別受益に対しては判例によりさまざまですが、一般的には代襲が発生する以前は、「遺産の前渡し」とは判断されにくいため、特別受益とはみなされず、持ち戻しも求められません
 

④推定相続人の配偶者

●推定相続人の配偶者は相続人ではありませんが、生前贈与を受けた場合は「相続者限定」として、持ち戻しの対象です
基本的には、「特別受益の払い戻し対象は相続人のみ」ですので、原則では、相続人でない人が贈与を受け取ても、払い戻しの対象になりません。

しかしながら特別受益の持ち戻しを免れるために、名義だけを変更した場合は、相続人への贈与と判断され、持ち戻しの対象となることがあります。
 

 

最後に

以上が相続トラブルが取り沙汰される「特別受益」と、特別受益とみなされた場合の「持ち戻し」についてです。

ここで、被相続人が相続人のひとりに生前贈与を行ったとして、何らかの事情で相続発生後に持ち戻しを抑えたい場合、遺言によって「持ち戻し免除」の指示ができます。

持ち戻し免除」とは名前の通り、遺言によって他の相続人に、生前贈与を行った特定の相続人が持ち戻しをせずに済むよう、遺産分割の対象外にしてもらうことを依頼することです。

生前贈与は相続税対策にも用いられますが、相続発生後のトラブルや特別受益の持ち戻しまで考慮して、対策を整えると良いでしょう。
 

持ち戻し免除について、詳しくは下記記事をご参照ください。
【沖縄の相続トラブル】遺言で特別受益の持ち戻し免除の意思表示を行う方法

 

まとめ

特別受益とは
●特別受益とは
・相続前に特別に受け取っている財産(利益)
・特別受益に期限はない
・相続発生前に譲る目的や要素があったかがポイント

●持ち戻しとは
・特別受益を遺産として加算すること
・持ち戻しは相続発生より10年前まで遡る

●特別受益にあたる3つの贈与
・生前贈与
・死因贈与
・遺贈

●特別受益にあたらない3つの贈与
・おしどり贈与
・日常的な小さな贈与
・相続人以外への贈与

●特別受益の対象者
・推定相続人
・贈与後の養子に入った人
・代襲者
・推定相続人の配偶者

●遺言で持ち戻し免除ができる